組織構造の設計原理
組織構造を決定する際に適用する5つの原則について説明します。
専門化の原則
専門化とは
専門家とは、分業化とほぼ同じ意味。組織の活動が特殊化された役割(営業に特化した営業部、人事に特化した人事部、経理に特化した経理部など)に分割された状態。
小規模の場合、この専門化というのは実はとても難しい場合があります。これは人材ソースの問題も多いものの、企業の製品やサービスそのものがそもそも競争力が高くない場合があり、それでも受注するケースというのは属人的な要素が寄与していう傾向があるためです。特に営業職の人がスタッフ的な動きを合わせて行うようなケースが多い印象。
専門化のメリット
特定の業務(職務)に専念することになり、各部門(担当者)は得意とする知識・能力の集中利用、反復による迅速な業務(職務)の習熟、専門化した手段と方法の仕様による大きな効果を生み出すことが可能になります。
「専門化の原則」という企業側の経営戦略に関わる領域での原則が、個人側にとっては「キャリアプラン」という個人の人生観に関わる部分として描かれているのは興味深いですよね。「効率化の為には専門化が良い」とする企業側の視点に合わせる形で、個人側の視点は「より専門的なキャリアを積み上げることが是」とされている点は同時発生した偶然の一致なのか、あるいは一方が先に発生して他方がそれに呼応する形で発生したものなのか。
権限責任一致の原則
権限責任一致の原則とは、各組織構成員に与えられる権限の大きさが、担当する職務に相応しているとともに、それと等量の責任が負わされないければならないというもの。
権限 | 意思決定を行い、その内容を実現するうえで、他の人々をこの意思決定に従わせることを公に認められている権利。 |
責任 | 割り当てられた職務に対して期待されている成果を上げる義務。 |
これら2つの関係が「権限=責任」とならなければいけないという意味。
統制範囲の原則(スパンオブコントロール)
統制範囲(管理の幅、あるいはスパンオブコントロール)とは、一人の上司が有効に指揮監督できる直接の部下の人数。
基本的に、統制範囲を広げるというのは一人の上司(管理者)が管理する部下の人数を増やすという意味になる。これは同時に階層数(管理者の数)を減らすということでもある。
理想論としては、一人の管理者がより多くの部下を管理できればできるほど経営効率は上がることになるが、現実には一人の管理者が直接的に管理できる人数には限界があるため、この限界を超えた人数を管理しようとすると管理効率が低下する(統制範囲の原則)。ただし、この限界値は個々人によって異なる。
管理者の統制範囲を拡大する方法
- 管理者の例外処理能力を高める
- 下位メンバーの知識や熟練を高め、例外事項への適切な判断力をもたせる
- 作業の標準化を進める
- スタッフ部門の創設など、管理者の例外処理能力を補強する構造を構築する
命令統一性の原則
命令統一性の原則とは、組織の秩序を維持するために、各組織構成員は常に特定の一人の上司からだけ命令を受けるようにしなければならないというもの。
私自身の経験則のみからの話にはなってしまいますが、この命令統一性の原則が守られない組織というのは大きな組織で起こるケースよりも小さい組織で発生する傾向が強いような気がします。大きな組織の場合は、そうはいっても一人一人の管理者の影響力は全体の人数に対して希釈化しがちですが、小さい組織の場合は一人の影響力がより大きくなり、そこに2トップ体制のような組織になると命令統一性の原則が破られてしまうというケースは頻繁に観察したことがあります。
例外の原則
例外の原則とは、「経営者は日常反復的な業務の処理を下位レベルの者に委譲し、例外的な業務の処理(戦略的意思決定および非定型的意思決定)に専念すべきであれう」というもの。権限移譲の原則ともいわれる。
定型的意思決定
通常の企業間k上のもとで問題が反復して発生し、また問題発生の原因と結果などが明確であり、あらかじめ定められた手続きにより行うことができる意思決定。業務胃的意思決定(各業務の具体的な目標設定とコントロールを行う意思決定)がこれにあたる。
非定型的意思決定
環境が絶えず変わり、過去の経験に頼ることができないような一回限りの非反復的問題で、問題発生の原因と結果などが不明確であり、既存の行動プログラムに頼ることができない意思決定。戦略的意思決定(企業の基本的な方向性と枠組みに関しての意思決定)がこれにあたる。
経営者の意思決定は戦略的意思決定および非定型的意思決定である。ただし、例外の原則を満たしていないと定型的意思決定に忙殺されて、否定形意思決定が後回しになってしまう。これにより将来の計画策定が事実上消滅してしまうことを計画におけるグレシャムの法則と呼ぶ。
組織構造の形態
ラインとスタッフ
ラインとスタッフは、組織構造を決めるうえでの基本概念であり、その違いは職能の内容と権限関係から生まれます。ラインとは、経営活動の基本的職能です。スタッフは、ラインの活動を支援していく職能であり、いわば間接的職能です。
組織構造の一般形態
機能(職能)別組織
企業の代表的な機能として、人事、営業、製造、購買、研究開発、経理、財務などがあります。機能(職能)別組織とは、これら個々の機能を単位化した組織で、企業の部門が人事部、営業部、製造部、経理部など、機能の名称で構成されている組織のことを言います。
【メリット】
- 分業により各機能の熟練が形成され、専門性が発揮できる(専門化の原則)
- 業務集中による規模の経済性が発揮できる
- トップ権限集中型の単純な階層構造であり、組織の統制を図りやすく(命令統一性の原則)、トップは広い範囲の情報を集めたうえで大局的な意思決定ができる
- 機能別組織を導入する前と比べてトップは定型的意思決定から解放され、全社的意思決定に専念(例外の原則)しやすくなる(ただし限界はある)
【デメリット】
- 機能部門間の調整などトップの負担が大きく、トップの意思決定に遅れが生じる可能性があり、環境変化や顧客ニーズへの対応が遅れる懸念がある
- 機能部門間で垣根が生じる可能性があり、組織内の人事交流が低愛し、部門横断的な対応や組織内の情報共有が困難になる懸念がある
- 機能部門管理者が担当領域に専門化してしまい全社的なマネジメント力がある人材が育ちにくい
- 各機能部門の利益責任の所在が不明確である
事業部制組織
①事業部制組織の特徴
事業部制組織とは、事業部と呼ばれる管理単位を本社のトップマネジメントの下に編成した組織形態であり、その大きな特徴は分権管理組織という点になります。各事業部は資本利益率(ROI)によって管理されています。
②事業部分割の基準
事業部は、製品・サービス、地域、顧客などを基準に編成され、大幅な権限が委譲されています。各事業部は、事業部単位の計画・統制を行い、企業全体の利益向上に貢献します。このような事業部をプロフィットセンター(利益責任単位)とよびます。
【メリット】
- トップマネジメントが業務的管理の仕事から解放され、戦略的意思決定に多くの時間をあてられる
- 現場の状況に即応した弾力的で迅速な意思決定が可能である
- 下位管理者のモチベーションが高まるとともに管理者の能力がを高め、次代の経営者の養成が可能となる
【デメリット】
- 研究開発、購買などの職能が各事業部で重複して行われ、コストがかさむ
- 各事業部がそれぞれの利益の達成にこだわり、視野が狭く、短期的な判断に陥りやすい
- 事業部間の競争が激化し、セクショナリズムをもたらしやすい
プロジェクトチーム
機能別組織・事業部成祖域は、メリット・デメリットで確認した通り、効率よく運営できる反面、組織の硬直化が起こりやすいという欠点があります。その縦割り型の組織形態に横串を入れることで、部門の垣根を超えた意思疎通を図る方法として最も多く用いられる手法のひとつがプロジェクトチームです。
プロジェクトチームとは、製品開発、システム開発などといった複数の部門に関連する課題を解決するために各部門から専門知識を有するメンバーを集めて臨時的に編成される組織です。プロジェクトメンバーは、本来所属する部門をいったん離れ、課題の解決に専念するのが基本です(通常業務と兼任でプロジェクトに参画する場合もあります)。
マトリックス組織
マトリックス組織とは、横断型組織あるいは格格子型組織ともいわれます。プロジェクトチームが恒常的に組織内に埋め込まれたようなもので、職能別組織と(製品別)事業部組織のもつ利点を同時に狙った組織形態です。
マトリックス組織は大規模なイメージがありますが、必ずしも大きい組織ばかりではありません。マトリックス組織の最大のねらいは範囲の経済性の追求です。そのため、限られたリソースを最大限に活用したい中小企業にとっても適した組織形態と言えます。
【メリット】
- 職能、製品など2次元に基づいた組織的統合を図ることができる
- 人的資源が共有でき、また、課題に柔軟に対応できる
- 情報の共有により情報処理が迅速化する
【デメリット】
- 組織構成員が2人の上司から指示を受けるいわゆるワンマンツーボスシステムのため、組織内にコンフリクトが発生しやすい
- 命令系統の錯綜により責任の所在が不明確になる
- 複数の管理者間での意見対立が増大する
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