競合他社との競争を優位にするための戦略パターンを競争優位の戦略といいますが、ポーターはこれらの基本として差別化戦略、コストリーダーシップ戦略、集中戦略の3つを上げています。
さらに上記3つの戦略を実現する為に、企業活動の整合化を目的とした価値連鎖(バリューチェーン)というフレームワークを提起しました。
3つの基本戦略
差別化戦略
差別化戦略とは、独自性を打ち出して競合他社に対する優位性を価格以外の点に築く戦略。
代表的な差別化の方法
①製品そのものに関するもの
品質、性能、デザイン、色彩、包装などについて差別化する
②製品サービスに関するもの
アフターサービス、代金の支払い条件、店舗数などについて差別化する
③消費者の認知度を高めるもの
広告、宣伝による製品の社会的認知度の向上、企業イメージの向上などについて差別化する
コストリーダーシップ戦略(低コスト戦略)
コストリーダーシップ戦略とは、競合他社よりも低コストで同種の製品を生産する戦略。大量生産を行い低コスト化を実現しシェアを高め、規模の経済性や経験曲線効果を得ることにより、さらなる低コストを実現していく。
あくまでも「低コスト」であって、必ずしも低価格である必要はない。他方で、低コスト化だけで競争に勝つことはできないので、低コスト化によって得られる収益などを競争に打ち勝つために活用する、というステップは必須であろう。
規模の経済性
規模の経済性とは、企業の規模や生産量が増大するにつれて平均費用(製品一個あたりの生産コスト)が逓減していく状況。同様の状況をコスト面からではなく生産面から表現すると、生産要素(原材料、資本、労働者)の増加以上に産出量が増える状況(収穫逓増)。産出量を倍にするために、すべての生産要素を倍にする必要ががない場合は規模の経済性が働いていることになる。
集中戦略
差別化戦略やコストリーダーシップ戦略が広い市場をターゲットにしているのに対して、集中戦略は市場を細分化し、特定のセグメントに焦点を当てる。その上でその市場にて、差別化の面もしくはコストの面で優位に立とうとする戦略。
各競争戦略のもつリスク
①差別化戦略のリスク
競合他社の模倣により差別化された特徴の優位性が喪失するリスク
②コストリーダーシップ戦略のリスク
競合企業がこの戦略を模倣すると利益を度外視した価格競争が行われるリスクがある
③集中戦略
ターゲットセグメントが狭いため、経営資源を豊富にもつ競合企業との差異が失われた場合に、大幅にシェアを失うリスクがある
価値連鎖(バリューチェーン)
業界構造を分析して、差別化戦略やコストリーダーシップ戦略、あるいは集中戦略によってより高い収益性を手に入れながら競合他社を競争を継続していくためには、企業活動をより無駄のない形で最適化していく必要があります。
価値連鎖(バリューチェーン)はその最適化のためのフレームワークで、企業の事業活動を機能ごとに分解し、どの機能で価値(差別化や低コスト化)を生み出しているか(生み出すことができるか)、どの機能に強みや弱みがあるのかを分析します。
そのうえで、企業にとっての競争優位の源泉を特定し、その源泉を最大限に活用したより良い価値を顧客にて提供するために、企業全体の活動を連結させていくためのもの。
企業の価値連鎖は、主活動と支援活動によって作られる。主活動と支援活動によって企業のマージンが生み出される。
活動の一部分だけを差別化や低コスト化できたとしても価値の最大化は難しい(有効性が高くない)と言われている。これはどこか一部分だけの低コスト化や差別化は模倣困難性が低いと考えられるから。
各活動それぞれが差別化や低コスト化が実現され、かつそれらが連結されてこそ価値の最大化が実現され(有効性が高い)、連結しているがゆえに一部分だけの真似ではなく全ての活動を真似しないといけなくなる(模倣困難性が高い)=競争優位の持続性が高い。
競争地位別戦略
業界内の競争地位は、市場占有率に基づいて、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの4類型に分類される。
類型 | リーダー | チャレンジャー | フォロワー | ニッチャー |
特徴 | 業界内で最大の市場シェアを持つ企業 | リーダーに挑戦し市場シェア拡大を狙う企業 | リーダーに挑戦せず、現状を維持し危険を冒さない企業 | 採算性の為にリーダーが扱わない分野、もしくは気が付いていない分野に資源を集中させる企業 |
経営資源の質と量 |
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市場目標 |
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市場に生存するための利潤を得る | 特定市場における利潤・名声・イメージ |
市場ターゲット | フルカバレッジ(全ての顧客を対象) | セミフルカバレッジ | 経済性セグメント(中~低価格志向) | 特定市場セグメント |
基本方針・基本政策 |
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以下はリーダー企業が戦略定石とする傾向が強い4つの動きです。
周辺需要拡大政策
市場そのものの需要を拡大させる政策。周辺需要が拡大すれば、既存のシェア比率がそのまま新規開拓分に適用されると感がる形。
TAC出版 中小企業診断士の教科書(上)では、歯磨き粉メーカーの例として「朝と夜に歯を磨く人が多い」という検証がされた場合に「毎食後、歯を磨こう」というキャンペーンを行う、といった例をあげています。また大手ハンバーガーチェーンが朝メニューを始めたのはこの典型例として挙げられています。
同質化政策
リーダー企業は、基本的にはチャレンジャー企業がとってきた差別化戦略は、有効と判断するものについては全て自社の相対的に優位な経営資源をもって模倣・追随し、自社に対する競合他社からの差別化戦略を無効にする同質化政策をとる。
非価格対応
業界が低価格競争に突入すると最も利益が削られてしますのは市場シェアが最大のリーダー企業になるため、リーダー企業は低価格競争に応じない非価格対応を取ります。
私自身も数年前に、このリーダー企業の経験をしたことがあります。正確には、より大きな市場の中での特定セグメントという位置づけになるのでニッチャーと言った方が正確かもしれません。いずれにしても、その特定セグメントでリーダー企業的な戦略定石を取っていたことがありますが、この非価格対応というのは実に難しいです。難しいというか、非価格対応を維持するために行わなければならない差別化戦略の選択肢がどんどん限られてしまうため(一つ一つの戦略実行サイクルがどんどん短くなってしまう)いずれかのタイミングでは多少なりとも低価格競争に巻き込まれざるを得ない状況が来てしまうという経験をしました。
最適シェアの維持
市場シェアを取りすぎるデメリットは、独占禁止法に抵触することと、市場シェア維持コストがどんどん高くなってしまうという点になります。そのため、適正シェアの維持が非常に重要なポイントになります。
実際問題として、市場シェアを取りすぎるという状況はなかなかなしえることができないのが現実です。そのため、知識としては理解をしておくにこしたことはありませんが、実際問題としてそこを気にするような次元に到達する前に、あらゆる困難が企業経営上は立ちはだかってきますし、独禁法を気にするよりもはるかに競合他社との競争に以下に打ち勝つかに常に悩まされるのが一般的ではないでしょうか。
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